2011年小職ベストセミナー要約


 「なぜボジョレーヌーボーは儲かるか」

 

公認会計士 林 總 

昨年一番好評だったセミナーの原稿を起こしました。是非ご一読ください。 

今日は「なぜボジョレーヌーボーは儲かるか」という話です。ご存知のようにボジョレーヌーボーの解禁は、毎年11月の第3木曜日です。ワイン好きが高じてブルゴーニュとかボルドー、トスカーナとかに時々でかけています。ボジョレーヌーボーのブドウの品種はガメイ種です。ガメイという名前からして美味しそうではないですね。かつては、リヨンの居酒屋やビストロで売られていました。ヌーボーとは新酒という意味です。フランスワインの産地のブルゴーニュの南の端がボジョレー地区です。この最も貧しく、最も安いワインを生産していた地区が一夜にして、世界中の羨望の的になったのです。今日は、その奇跡についてお話をしたいと思います。私は、管理会計の専門ですので、あくまでも管理会計の話です。 

ここで作られるワインは、夏の終わりに収穫して秋までには仕上げて出荷されます。通常、良いワインは3年ほど寝かせます。ボジョレーヌーボーは、収穫してから3か月後には世界中の店頭に並びます。そんなわけで100年以上前はメーカーが出荷を競い、まだワインとはいえない代物を出荷する業者が横行しました。。そこでフランス政府は、充分に出来上がってないワインを出荷しないようにと解禁日を法律で設定しました。 

醸造家のジョルジュ・ディブッフが1981年に、この早く飲める以外に何のとりえもないワインを世界のブランドに仕立て上げました。すなわち、早く飲めることを個性と演出し、リヨンの三ツ星レストランのポール・ボキュースのメニューに入れて高級品を演出。そしてラベルのデザインを毎年変えて視覚的にアピールし、生産地にワイン村を開設してPR。これで一気にお客さんを増やそうと考えたのです。需要が増えても、生産が追い付かないと売上に繋がりませんそこで、をマセラシオン・カルボニック法と呼ばれる急速発酵技術で早期大量生産をして、79週間でワインを完成させて、急激な受注増に対応する仕組みで対応することにしました。海外の有力販売業者への売り込みと販売チャンネル、市場の拡大を進めました。生産が増えれば、原料のブドウの生産も増やす必要があります。農家の組織化で材料安定供給とコスト削減を行いました。さらに、規模が拡大すれば運転資金が不足します。在庫と売掛金が増えるからです。その問題を解決するために、解禁日をあおって予約販売を進めました。組織を超えたプロセス管理を行い、生産したワインを一気に販売して確実な現金化にしていったのです。彼がやったのは、キャッシュフロー経営でした。 

一方のボルドーワインは、品質を保つために出来の良いブドウだけを厳選して、23年の熟成期間を経て出荷。つまり在庫滞留していることになります。在庫はお金の仮の姿ですから、、お金が利益を生まない状態で眠ってしまっていることです。キャッシュフロー経営的にはボジョレーより劣っているということです。 

ここで別の視点からキャッシュフローを見ていくことにします。餃子屋と高級フレンチでどちらが儲かるのかを考えてきましょう。管理会計的には限界利益と固定費の話です。限界利益は、売上

から材料費を引いた金額です。売上を増やせば、限界利益は比例して増えます。限界利益は収入の源泉です。固定費はビジネスの維持費です。大きな店舗なら家賃がかかりますし、店員が多ければ人件費は増えます。これらの費用は売上に関わらず、商売の規模が変わらなければ、毎月ほぼ同額の支出を生じさせるところから、固定費と呼ばれます。この限界利益と固定費が一致する売上、つまり収支がバランスする売上高を「損益分岐点売上」といいます。この実際の売上高が損益分岐点売上が多けなれば利益ですし、少なければ損失になります。例えば、餃子屋は小さな店構えで出来て、売上が少なくても固定費も少なく限界利益が低いので、少ない売上高で損益分岐点に達します。また多少売上げが減っても赤字になりにくいビジネスモデルです。一方高級フレンチは、家賃や設備費、それに従業員の人件費などの固定費が多く掛かる一方で、料理が高い分限界利益率は高くなります。損益分岐点売上を達成するには、骨が折れるということです。しかし、景気がいい時は餃子屋よりはるかに多い利益を稼ぎだせますが、不況と共に売り上げが減ると、瞬く間に赤字になってしまいます。拙著「餃子屋とフレンチでは、どちらが儲かるか」では、両者は利益構造が違うから、どちらが儲かるかは一概には言えない、と書きました。ところが、そうではなかったのです。 

ひらまつと王将を例にお話しします。ひらまつは、売上100億円のフレンチレストランで、王将はご存じのように餃子の王将です。ひらまつと王将を比較していきますと、王将の売上高はひらまつの約6(平成23年度)ですが、固定費、限界利益、営業利益も6倍です。また、限界利益率、営業利益率は全く同じでです。つまり損益計算書だけ見ているとひらまつも王将も、収益力に差をなく、違いは会社の規模だけだと思うわけです。 

でも、そうではないのです。利益構造は同じですが、営業キャッシュフローを獲得する(現金を生み出す)力は王将が圧倒的に優れています。実際に増やした現金が、ひらまつと王将では14倍も違うのです。この筆身を解くカギは、在庫と売掛金にあります。 

現金循環化日数を計算すればたちどころに分かります。現金循環化日数は、仕入れから製造、販売、代金回収までの日数。この日数が少ないほど、企業の運転資金が高速で回転していることを意味します。在庫の回転日数は王将が4.7日でひらまつは76日。現金循環化日数はひらまつが40日なのに、王将はなんとマイナス25日です。このことからわかるのは、つまり、王将は自分の資金を使わないで商売しているのです。王将の秘密は、運転資金の負担がなく、在庫の回転率が速く、資金を高速に回転させているからです。それともう一点。王将の限界利益率が高いというのが、私の仮説を根底から覆しました。材料仕入と材料の使い方が桁違いにうまくなされているということです。 

以上の2つの例からボジョレーヌーボーと王将の共通点が浮き彫りになります。つまり、利益率が高く、運転資金の投入から回収までの時間が短いという点です。